2007年制作、監督はウォン・カーウァイ。
ウォン・カーウァイ初の英語作品であり、第60回カンヌ国際映画祭のオープニング作品として上映された。
『マイ・ブルーベリー・ナイツ』のあらすじ
恋人にフラれたエリザベス(ノラ・ジョーンズ)は、別れの真意を知ろうと、彼の部屋の向かいにあるカフェに行く。
カフェのオーナーであるジェレミー(ジュード・ロウ)から、彼が別の女性と一緒にいるのを見たと聞いても、踏ん切りがつかない。
エリザベスはカフェに通うようになり、ジェレミーと親しくなる。
ジェレミーはエリザベスを慰めるうちに彼女に好意を持ち始める。
エリザベスは気持ちの整理をするため、旅に出る。
時にはウェイトレスをしながら、また移動してカジノで働きながら、エリザベスは出会う人のドラマを見ながら自分の気持ちを見つめ直していく。
『マイ・ブルーベリー・ナイツ』の感想
どのシーンを切り取っても絵になる美しい映像に感動!
昔見たウォン・カーウァイの作品「恋する惑星」「欲望の翼」「天使の涙」の映像は印象に残ったし、「花様年華」なんかは大人の映画で、くゆらすタバコの煙まで美しいと思いました。
でも、この「マイ・ブルーベリー・ナイツ」の映像美はそれらの作品とはまた違う独特の美しさがあります。
そして、主人公のエリザベスが旅する中で出会う人達の人間ドラマがまた深いです。
以下ネタバレになるのでご注意くださいね。
NY
エリザベスは恋人の心変わりを受け入れられず、彼の部屋の向かいにあるカフェ・クルーチを訪れます。
店名の「クルーチ」とはロシア語で「鍵」という意味で、オーナーのジェレミーはたくさんの人の鍵を預かっています。鍵の数だけ物語があるのです。
ジェレミーは傷心のエリザベスを慰め、エリザベスはカフェに通うようになります。
恋人の心変わりの真相を問うエリザベスに、ジェレミーは「他のケーキやパイは売り切れたり残っても少しなのに、ブルーベリーパイは売れ残ってしまう」と話します。
なぜ、と言うエリザベスに「美味しいのに、ただ人が選ばないだけだ」と言うのです。
つまり、エリザベスの恋人の心変わりも「ただそういうものだ」ということ。エリザベスが悪かったわけではなく、何がいけないのかなんて考えなくていいのです。深いなぁ。
エリザベスは売れ残りのブルーベリーパイを注文し、ジェレミーはエリザベスのためにブルーベリーパイを取っておくようになります。こういう二人の心が通ってきた描写が素敵です。
ある時、店の防犯カメラの修理があり、以前のテープに恋人の姿を見つけたエリザベスは涙を流し、やがて店のカウンターで寝てしまいます。
カウンターに突っ伏して寝るエリザベスに、ジェレミーはそっとキスします。ジェレミーがエリザベスに好意を持っていることはこれまでも明白なのだけど、失恋から抜け出せないエリザベスに自分の気持ちを押し付けたりしないで、あくまでそっと見守る姿が本当に素敵。
メンフィス
エリザベスは気持ちの整理をしようと、旅に出ました。メンフィスにたどり着いた彼女は、不眠症なので昼も夜も働きます。
昼間ウェイトレスをしている店でも、夜働いているバーでも、警官のアーニー(デヴィッド・ストラザーン)が客として来ていて、顔なじみになり、話をします。
アーニーは昼間はきちんと仕事をしているのに、夜になるとだらしなく酒に酔ってしまいます。彼は別れた妻スー・リン(レイチェル・ワイズ)が忘れられずにいました。
バーでスー・リンに会うとアーニーは未練たらたら。そんなアーニーをスー・リンは疎ましく思っています。
ある時、いつものようにバーで酒を飲んでいたアーニーはスー・リンの恋人に暴力を振るってしまい、スー・リンに激しく罵倒されます。
今度こそお別れだと言われたアーニーは、スー・リンと出会った場所で事故を起こし、死んでしまいます。
アーニーを疎ましく思っていたはずのスー・リンは、夫の死にショックを受け、悲しみにくれます。そして、町を出ていきました。
このアーニーとスー・リンの話、すごく心に沁みました。アーニーは心から妻を愛していたのだけど、スー・リンは受け入れられなくて、でも愛情がなかったわけじゃないから亡くなったことでひどくショックを受けてしまう。
もっと優しくできたら、と思ってももう相手はいない。酒に酔うアーニーも、彼が死んで悲しむスー・リンの姿もすごく痛々しくて、愛情がうまく絡まないつらさが伝わってきます。
スー・リン演じるレイチェル・ワイズ、あまり性格がいいようには描かれていない役だけれど、美しい!初見ですが、他の作品も見たくなりました。
ジェレミーの気持ちがすごく伝わってくるシーンで、予告でも使われていましたね。
ジュード・ロウって「ホリデイ」なんかもそうだけど、こういういい人の役が意外に(?)ハマりますね~。こんな人に想われるエリザベスは幸せだなぁ、と思います。
でも、そんなことを知らないエリザベスはメンフィスを出て次の町に向かいます。
カジノ
ニューヨークから5603マイル。エリザベスはカジノで働き始めました。
そこで、美しいギャンブラー、レスリー(ナタリー・ポートマン)と出会います。
勝負に出たいけれど、負け続きのレスリーは、車を書いたくて貯金をしていたエリザベスに借金を申し込みます。
勝てばお金は増えるし、もし負けてもレスリーの愛車のジャガーをくれると言います。悪い提案ではありません。エリザベスも賭けに出て、レスリーにお金を貸しました。
ところがレスリーは負けてしまい、ジャガーは譲るからラスベガスまで一緒に行ってくれと言い、エリザベスは同行します。
ラスベガスにはレスリーの父がいて、向かう途中に危篤の連絡が入りました。でも、これまでも何度も騙されていたレスリーは信じません。父からも「人を信じるな」と教わっていたのです。
病院に向かいますが、レスリーはエリザベスに本当に父が危篤かどうか見てきてくれ、と頼みます。残念ながら今回は真実で、レスリーの父は亡くなっていました。
父の死にショックを受けるレスリー。本当は、真実に直面するのが怖くてエリザベスに確認に行かせたのです。
ここも、なかなか深いです。父への愛情はあっても真実には直面できない。だから最期をみとどけるところができなかった。ちゃんと向き合っていればよかった、と後悔するのです。
アーニーを亡くしたスー・リンと同じですね。
レスリーの愛車ジャガーは父の形見となり、エリザベスにはあげられない、と言います。私はどうすれば、と困惑するエリザベスに、レスリーはお金を出します。
実は、レスリーは賭けに買っていたのです。父に会いに行くのに一人では淋しくてエリザベスをつき合わせるため、嘘をついていました。
レスリーに「もっといいクルマを買えば」と言われながらも、堅実な車を選ぶエリザベス。二人の性格が現れていて面白いです。
エリザベスもレスリーも晴れ晴れとした顔で、お互いの人生を歩むように、それぞれの車に乗って出発します。
レスリー演じるナタリー・ポートマンがカッコよかった!
父に対して素直になれなくて、死に直面するのが怖くて、最期を見届けられなかったけれど、それでも自分の足でしっかり生きている姿は凛としています。
ジャガーに乗って颯爽と去る姿は素敵です。
『マイ・ブルーベリー・ナイツ』のラスト・結末
エリザベスが不在の間、ジェレミーの元に、彼の元恋人カティアが訪れていました。カティアはジェレミーに未練があったようですが、ジェレミーはもう前を向いています。
カティアは去っていき、ジェレミーは鍵を捨てました。
エリザベスが戻ってきて、いなくなった恋人の部屋を見上げても気持ちは落ち着いています。
寒空の中、外で待っていたジェレミーはエリザベスと再会します。長い旅をしたけれど、エリザベスは戻ってきました。
ジェレミーは、やはり売れ残るのにブルーベリーパイを作ってエリザベスのために取ってありました。
以前のようにパイを食べて、カウンターで寝てしまったエリザベスに、ジェレミーは以前と同じように優しくキスをします。エリザベスはそれに応えます。
旅をして、他の人の人生を見て、本当に自分を想ってくれる大切な人がわかる。そう書くとなんともありきたりな話だけど、この映画は細部まで丁寧に描いていて、押し付けがましくなく伝わってきます。
軸になっているのは主人公の失恋や恋愛だけど、全編を通した人間ドラマがよかったです。
触れるのが最後になってしまったけれど、ノラ・ジョーンズが可愛かった!歌声しか知らず、女優としての彼女を見るのは初めてだったけれど、純粋な女性の役だったこともあり、好印象です。他の役も見てみたいなぁ。