監督 – 吉田大八、主演-宮沢りえ。
『紙の月』のあらすじ
バブル崩壊直後の1944年、梅沢梨花(宮沢りえ)は夫と静かに暮らしていた。
銀行でのパートタイムの仕事は評価が高く、契約社員となり充実していた。
一見何不自由ない生活のように見えるが、梨花をどこか見下しているような夫(田辺誠一)とは気持ちの上ですれ違いが生じていた。
ある日、営業で裕福な老人、平林(石橋蓮司)の家で大口の契約を結ぶもののセクハラにあってしまう。
家に居合わせた孫の光太(池松壮亮)がそれを助けてくれた。
後日再会した光太は梨花に熱い視線を送り、再度再会した際に二人は不倫関係となる。
光太に借金があると知った梨花は、銀行で横領を始め、光太に渡してしまう。
夫が上海に転勤になると、梨花は日本に残るといい、光太との関係は深まり、派手に散財して横領の額も膨れていった。
銀行ではベテランの行員より子(小林聡美)が梨花の行動を怪しみ、横領を嗅ぎつけ、梨花は追い詰められていく。
『紙の月』の感想とネタバレ
銀行員の多額の横領事件、しかもこれには実話のモデルがいるのでは?なんていう前情報があるともうワクワクしちゃいます。
銀行での横領にも不倫関係にもズブズブと深みにハマっていく梅沢梨花演じる宮沢りえさんがなんとも魅力的!
お金も恋も手に入れる、なんていうと峰不二子のような強くてセクシーな女性を思い描いてしまうけれど、決してそんなタイプではなく、むしろ繊細で他者依存度が高そうな感じ。
それなのに、自分で道を切り開く強さも潜んでいて、そのアンバランスな脆さがゾクゾクするほど素敵なんです。
なんといっても美人ですし!
しかし、梨花の不幸は男性を見る目がないところ。
だって、夫は時計をプレゼントしたら、もっと高価な時計を贈り返してくるよな無神経なヤツだし、不倫相手は二人のためのマンションに浮気相手を連れ込むようなどうしようもなさ。
しかも、大学も仕事も辞めちゃうし、借りたお金は返さない。
まぁ梨花だって横領してるんだから、その点は同じなのですが。
脇を固める女優さんたちも素敵です!
梨花の横領を見抜き、追い詰めていくベテラン行員より子演じる小林聡美さんの演技が「コワイ」と言われているようだけど、追い詰めていきながらもどこか梨花に対する態度に温かみを感じました。
梨花が銀行の会議室で処分を検討されている時、二人きりになって「あなたのことずっと考えてた。自分ならどうするだろうって」と話します。
梨花と対照的に、理性的に生きてきたより子はハメを外したことがなくて、でもやってみたいことって徹夜ぐらいしか思いつかないという。
もしかしたら、やりたい放題の梨花を羨ましく思っていたのかもしれないけれど、親のような目でみている姿がなんとも印象的でした。
それから、梨花の同僚で若くて今時の女性、相川恵子を演じる大島優子さんがよかった!
無邪気な顔して梨花に悪魔の囁きをするんです。
「ちょっとくらい(お金を取っては)ダメですかね?あとで戻せば」
「私のこと見張っててもらえません?お金触ってると私の手、マジでどうかしちゃいそうなんですよ」
実際、梨花は化粧品売場でお金が足りなかった時に、お客から預かったお金から支払いを済ませてしまう。
その時は、ちゃんと後で自分の銀行口座からお金を引き出して戻すのだけど、そのことが引き金となって横領に手を染めてしまう。
恵子は自分が上司と不倫していることも、思いがけずではあるけれど、梨花に告白してしまう。
梨花の横領が上司にバレそうになった時も、梨花はそのことをネタに脅すようなことを言って煙に巻いてしまう。
なんというか、恵子は人の理性をグラつかせるような存在なんですよね。
そんな小悪魔的なところを、大島優子さんは上手く演じているなぁ、と思いました。
「闇金ウシジマくん」でも、汚れ役を演じつつも透明感があってピュアな存在なのが印象的だったし、いい役者さんですね!
忘れちゃいけない、梨花の不倫相手光太を演じる池松壮亮!独特の存在感でした!
梨花のお客さんである富豪の老人の孫として出会うのだけど、駅でばったり再会して熱い視線を送る時、再度駅で梨花を見つけて目で追いかけるときの表情、梨花が自分と同じ電車に乗って向かい合う梨花の顔を見つめる目なんて、無言の演技なのにすごく繊細で気持ちが伝わってくる。
池松壮亮さん、すごーく顔が整ってるとか、高身長とかでもないのに、『愛の渦』『海を感じる時』のような年齢制限のつく作品でセクシーな役を演じてますよね。
この映画での繊細な演技を見ていると納得!でした。
印象に残っているのは、梨花の根っこの部分にある、子供の頃の募金活動での出来事。
梨花はキリスト教の学校に通っていて「愛の子どもプログラム」という募金活動が行われます。
募金すると、そのお金が届いた国の子供から手紙が届き、生徒たちは無邪気に喜んでいました。
でも、時がたつとその熱は薄れ、梨花以外の生徒は募金をしなくなり、梨花はそれを悲しく思います。
ある時、梨花は父親の財布からお金を盗んで募金しますが、それが5万円という大金だったため、問題視され募金活動は中止となるのです。
学校のシスター(先生)は「ラッパを吹き鳴らすな(ひけらかしはいけない)と言ったでしょう」というが、梨花は「ひけらかしてなんかいない、私は子供たちが喜んでいると思うと幸せなんです」と言います。
子供の純真な気持ちではあるけれど、父親からお金を盗んだことについて全く罪悪感はなくて、このことが後の横領事件についての伏線になっています。
『紙の月』のラスト結末
横領がバレて、ベテラン行員のより子にその理由を問われた梨花は「ニセモノだから」と言います。
「ニセモノなんだから、壊したっていい」「だから私、本当にしたいことをしたんです」
子供の頃と言っていることは同じように感じます。彼女だけの正義で、法律的には犯罪。
犯罪者の心理なのかな、と思いますが、映画では募金活動の時の記憶と「ニセモノだから」と語るシーンがオーバーラップして描かれて、梨花の気持ちがなんとも切なく感じます。
銀行の一室にいた梨花はもう捕まる、という寸前に椅子を投げて窓を割ります。
あっけにとられるより子に手を伸ばし「一緒にきますか?」と言います。
共犯関係を結ぶプロポーズともとれますが、結局梨花は一人で逃げます。
東南アジアの市場らしき場所に梨花はいました。
顔にあざがある男性を見つめながら茫然とした表情で果物をかじる梨花。
男性は梨花がかつて「愛の子どもプログラム」で支援していた子供でした。
男性が声をかけても反応がないので彼は仕事に戻ります。
梨花は踵を返すとその場を後にするのでした。
まとめ
トリビアですが、原作者の角田光代さんは言明していないものの、実話がモデルになっているのでは?なんて言われていますよね。
女性銀行員が起こした多額の横領事件はいくつかありますが、その中でも、1983年に伊藤素子が主犯となった三和銀行1億8千万円横領事件は本作に近いのかな、と思います。
美男子で長身の南という男に夢中になった伊藤素子は、命じられるままに銀行のお金を横領して海外に逃亡するものの逮捕される。
伊藤素子は美人で「好きな人のためにやりました」と答えたことから当時は大きな話題になったようです。刑務所にファンレターが届いたとか。
こういう事件ってすごく興味を持ってしまう。3億円事件が未だにドラマ化されたりするように、惹きつけられる事件ってありますよね。
いいようにされていたのに「好きな人のためにやりました」なんて、横領事件とはいえ心に響きます。
原田知世さん主演のドラマ『紙の月』もあるようなので、そちらも見てみたいなぁ、と思いました。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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